• 私の「誠実と革新」 Vol.07

リモート治験
ってナンダ?

リモート治験ってナンダ?

私の「誠実と革新」Vol.07

創薬の加速化、
治験の新たな姿を描く

日本開発センター 領域戦略ユニット
(希少遺伝性疾患・血液疾患)
プロジェクトリーダー

堀 徹治

オンライン診療など、医療の世界でも遠隔でできることが増えているが、新薬を世に生み出す前に実施される臨床試験(治験)の世界でも、リモート化の流れが進んでいる。治験参加者の負担軽減と、遠方や希少疾患の患者さんの参加機会の向上を目指した取り組みがDCT(Decentralized Clinical Trial:分散型臨床試験)と呼ばれる、治験のリモート化である。今回は、タケダのDCT推進役として活躍する堀徹治さんに、現状と今後の展望について伺った。

患者さんにとって
医療機関中心の治験から、
参加者中心の治験へ

従来の治験では、通院など治験参加者の負担も大きかったそうですが、どのような課題があったのでしょうか?

従来の治験では、参加にかかる時間や場所の制約の面で課題がありました。基本的に治験参加者には長期にわたって、通常1週間から1カ月に1回の頻度で診察や検査のために治験実施医療機関に通っていただく必要があるため、かかる負担は小さくありません。

また、特に希少疾患の治験では、患者さんは全国に点在しているものの治験実施医療機関には高度な専門性が求められ数が限られるため、治験に参加したい方が、通院が困難で参加を諦めざるをえないというケースもあります。治験を依頼する製薬企業としても、希少疾患の治験には参加者が集まりづらいため、どうしても全体としての治験期間が長くなってしまい、新しい薬を世に出すスケジュールにも影響が生じがちでした。

新しい治療の選択肢を提供するためにも、1日でも早く患者さんへ新薬をお届けしたいので、以前から、「一部プロセスを治験実施医療機関に足を運ばなくてもできるようにならないか?」と考えていました。

それがDCTと呼ばれる、デジタル技術を活用した、来院に依存しない治験の手法、いわゆる“治験のリモート化”です。DCTの概念自体は20年以上前からありましたが、2020年頃よりコロナ禍の影響もありDCT推進の動きが急激に加速しました。

具体的にどのようなDCTによる治験のアプローチがあるのでしょうか?

DCTと従来の治験との比較をまず簡単にご紹介します。

具体的にどのようなDCTによる治験のアプローチがあるのでしょうか? 具体的にどのようなDCTによる治験のアプローチがあるのでしょうか?

前述の通り、従来の治験のアプローチでは治験参加者に治験実施医療機関へ通っていただく必要がありましたが、 DCTによる治験のアプローチでは、なるべく通院しなくても済むように工夫をしています。

特に、治験参加者数が数名や数十名で、治験実施医療機関が全国で数施設程度ということも少なくない希少疾患の治験においては、DCTのアプローチを活かせば治験に日本全国から参加してもらえる可能性が広がり、治験への参加を希望する遠方の患者さんのニーズを満たすとともに、創薬のスピードの加速につながることが期待されます。希少疾患を重点領域の一つにしているタケダとしても、DCTを活用することで、今まで以上に患者さんに貢献できるようになるかもしれません。

現在、私が携わっている希少疾患の治験は、国内では大学病院など数施設でしか治験を行っていないため、DCTを活用することで遠方の患者さんにも参加していただきやすいよう、環境整備を行っているところです。

しかし、すべての治験でDCTを全面的に採用しているわけではなく、治験の対象疾患や対象年齢、実施規模などに合わせて、各プロジェクト毎にどのアプローチを採用するかを決定しています。

治験参加者への
負担を軽減する、
DCTの体験デザインを描く

DCT推進にあたって、大切にしているポイントはありますか?

DCTの体験デザインをするにあたって、「治験参加者のニーズを満たしているか?」を常に考えるようにしています。

たとえばある試験では、「遠くの医療機関ではなく、近隣医で治験を受けられるようにしたほうがいいのではないか?」と検討したことがありました。しかし治験参加者の方からすると、遠くても通いなれた病院で診察・検査を受ける方が心理的な負担が小さく、安心感が得られるという声もあることが分かりました。また看護師さんの自宅への訪問も、通院の負担を軽減できる反面、自宅へ見ず知らずの方が訪問することに抵抗を持たれる方もいらっしゃいます。

これは、すべての治験参加者がフルリモートを望んでいるわけではないことの表れでもあります。我々からすると、「通院回数が減れば治験参加者の方は助かるのでは?」 と考えがちですが、いつも顔を合わせている医師や看護師と実際に会って話をすることで、安心できる患者さんは少なくありません。

病院に行く負担を少なくすればいいと安易に考えるのではなく、個々の事情に寄り添いリモートか通院かを選べるような体験デザインをしていくことが重要であると考えています。

関わるすべての人が、
DCTの
メリットを実感するために

DCTを推進する上での、今後の抱負を聞かせてください。

DCTの導入事例が徐々に増えてきている手応えはありますが、まだ試行錯誤の連続です。

リモート治験を実現するためのさまざまな取り組みが、治験参加者や支えるご家族にとって、馴染みやすく利用しやすいアプローチであることが大事だと考えています。医療従事者の方も含めた関係者に支持いただけるような、アプローチの開発と選定をすることが重要です。今までの治験とやり方が変わることに対する心理的なハードルを、シンプルで馴染みやすいアプローチで超えてもらう。製薬企業としてこの「最初の一歩」を超える手助けが十分にできるか否かが、DCTがさらに普及していくのかの分岐点ではないでしょうか。

今後の抱負は、治験参加者、治験実施医療機関、企業の3者が「DCTっていいよね」と強くメリットを実感できるような、次なるフェーズに進んでいきたいです。治験参加者を募り、治験を行い、そして新薬を世に生み出すという一連のプロセスの加速につながることが示せれば、 DCTの導入率はさらに高まると考えています。

そのためには一つひとつの細かな課題を丁寧に解決し、ひとつでも成功体験を積み重ねることが大切です。DCT導入には様々なハードルもありますが、タケダは、マネジメント層からチームメンバーまで全員が「患者さんのために」という判断軸でどんどん物事を進めています。現在はまだ、目標実現に向けて道半ばですが、この恵まれた環境を活かして、さらに高みをめざしていきたいですね。

掘 徹治
PROFILE

堀 徹治

日本開発センター 領域戦略ユニット(希少遺伝性疾患・血液疾患) プロジェクトリーダー。入社時から主に消化器領域における臨床試験の計画立案に携わる。2020年4月より治験の運営方針の策定やスケジュール・予算管理、業務委託先との連携など、治験の遂行業務を担う。また、DCT推進を手がけるチームにおいて、DCTに関わる基盤・体制整備、各治験プロジェクトにおける課題解決の支援と、そのナレッジシェアリングをリードする。2023年3月より、現職。

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