• 私の「誠実と革新」 Vol.06

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世界約80の国と地域で患者さんのさまざまなヘルスケアの課題と向き合うタケダでは、多様なバックグラウンドをもつ従業員が、違いを活かし自分らしさを発揮して活躍できる働きがいのある職場環境の構築を目指しています。ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)をリードするヘイデン・マヤヤスさん。日本を拠点にグローバル全体のDE&Iをさらに加速すべく取り組むヘイデンさんに、DE&Iにかける想いを聞きました。

多民族文化の中で芽生えた「世界の課題を解決したい」という想い

DE&Iの推進に携わるようになった経緯について教えてください。

ヘイデン:幼いころから、出自あるいは考え方が人と違うことで、偏見や差別的な扱いを受けることに問題意識をもっていたことが大きいと思います。私の母国であるオーストラリアは、さまざまな文化や民族からなる国で、私の家族も父方はエストニア、母方はドイツにルーツがあります。曾祖父母が第2次世界大戦で迫害を受け、まさに命がけでオーストラリアに移住してきたのですが、その際の壮絶な経験を祖母がよく子供の私に話してくれました。恐ろしい気持ちになったのと同時に、二度とそのような不当で悲しい事態が起こらないよう、力になりたいという強い想いが生まれました。

私は映画『スターウォーズ』のファンなのですが、映画に登場する各惑星の代表者が集まって問題解決する銀河元老院のシーンを観て、世界に存在する問題を話し合いで解決し、多くの人たちの役に立てる組織で働きたいと思うようになったのです。

世界の課題を話し合いで解決するには、言語を学ぶ必要があると考え、中学時代から仏伊独日の言語を学びました。日本では大学、大学院を経て就職し、計15年以上を日本で過ごしているので、日本は第2の母国だと思っています。

DE&Iに携わるようになったきっかけは、ある米国証券会社の日本支社に勤めた時です。2000年代前半の日本にはまだダイバーシティやLGBTQ(レズビアン・ゲイ・バイセクシュアル・トランスジェンダーなど)という考え方が広まっておらず、性自認について職場で話題に上がることが少ない時代でしたが、その会社では先駆けて性的マイノリティの社員ネットワークがあると聞いて入社を希望しました。入社後すぐに私はネットワークのメンバーになりたいと担当者に連絡したところ、活動は欧米が中心でアジアでは実施していないといわれがっかり。ところがその数日後、再度連絡が来て、アジア初のグループを作ってみますか?と言われ動き出したのがきっかけです。2004年後半のことです。法律や経営戦略に関わる仕事の傍らネットワークの活動に携わりました。その後、LGBTネットワークが人事の一部門として発足した際には、CEO直々に立ち上げのリーダーに任命され、そこから私のDE&I推進のキャリアが始まりました。

DE&Iの推進に携わるようになった経緯について教えてください。

そんなDE&Iの先駆者でもあるヘイデンさんは、2021年6月にタケダ初のグローバルDE&Iヘッドとして入社されました。タケダを選んだ理由を教えてください。

一時日本を離れ、香港とシンガポールで15年間働きましたが、日本でのDE&Iの浸透の遅れが気になっていました。いつか日本に戻って、自分の経験を活かし貢献したいと考えたところにこのチャンスに巡り合い、すぐに決断しました。というのも、「世界中の人たちの健康と輝かしい未来に貢献する」という存在意義の実現を目指すタケダの理念に強く共感したからです。さらに明確な会社のバリュー(価値観)があるところも魅力でした。タケダイズムの「誠実・公正・正直・不屈」という考え方は、まさにDE&Iの根幹です。この理念や価値観を従業員一人ひとりが日々の業務の指針としているのはタケダの強みだと思います。また、タケダは日本からグローバルにビジネスを展開しているので、グローバルにDE&Iのインパクトを広げていく基盤が整っている点も大きなポイントでした。

価値観に基づくタケダの
DE&Iの4つのコミットメント

ヘイデンさんがグローバルDE&Iヘッドに就任されて以降、どのような取り組みをしてきたのでしょうか?

ヘイデン:誰もがタケダで働き続けたいと思えるような働きがいのある環境を築いていきたいという考えのもと、「グローバルDE&I Ambition」を策定しました。社内で進められていた多くのDE&Iの取り組みについてヒアリングし、課題や挑戦していきたい内容などを理解し、タケダのDE&Iの考え方について統一した方向性を示しました。それが、「多様性を尊重し、患者さんや従業員が医療サービスや職場環境において平等に機会が提供され、その能力を従業員の力と合わせて、最大限に発揮できるように務める」というものです。

Ambitionを達成する上で重視していることは何でしょう?

ヘイデン: 4つのコミットメントを掲げています。まずは、患者さんに寄り添い支えるということ。多様な患者さんの立場に対する理解を深め、どんな人も十分な医療サービスを受けられるエコシステムを支えていこうという考えです。次に、人材の多様性を尊重すること。国によって違う多様性の水準を指標に反映しデータを通じて格差を明確にすることで、人材の育成・維持・昇進等に関わる人事制度の公平性を高めていきます。この多様性の尊重と両輪にあるのは3つ目の柱、インクルーシブな職場環境を作ること。従業員の性別、年齢、国籍、性的指向や性自認、宗教、障がいなどさまざまな違いを多様性として許容できる企業文化を作り出し、誰もが「タケダで働き続けたい」と思える働きやすい環境を生み出すことを目指します。

最後に、社外へのインパクトを生み出していくこと。世界中で5万人の従業員が働くタケダは、それぞれの地域社会に大きな影響を与えられる立場にあります。多様なバックグラウンドのパートナーやサプライヤーと積極的にかかわり、ヘルスケアエコシステム全体に公平性を尊重する文化を浸透させていけるようになりたいと思っています。

図1 DE&I Ambition 図1 DE&I Ambition

公平性「Equity」というお話がありましたが、その考え方について教えてください。

ヘイデン:DE&IのEは「Equity(公平)」です。「Equality(平等)」との違いを認識することが大切です。

誰もが同じ機会を与えられることが「平等」ですが、それは「平等に機会が与えられればどんな人でも活躍できる」ということを前提にしています。例えば、移動手段。同じ自転車を与えられれば皆がそれに乗って遠くに行けるはずだと考えがちですが、実際には自分一人では自転車に乗れない、自転車の乗り方が分からない、自転車が大きすぎてペダルに足が届かないなど、自転車に上手く乗れずに移動できない人たちがいる。このシーンでは、平等に自転車を提供することは課題解決にならないわけです。ではそういう人たちが移動できるために本当に必要なものは何か。それぞれのニーズを理解し必要な支援を提供する、それがEquityの考え方です。

図2 平等(イクオリティ)と公平性(エクイティ) 図2 平等(イクオリティ)と公平性(エクイティ)

従業員の意識と行動に
変化をおこす

実際に社内ではどのようなアクションが生まれているでしょうか?

ヘイデン:枠組みとしては、ジェンダーの平等に向けた「ダイバース・スレイト」のルールを新たに設けました。「多様性のある候補者リスト」という意味で、トップレベルの管理職層を新たに起用・採用する際、また後継幹部の育成を検討する際には、その候補者の中に必ず男女を含めるというルールを、TET(タケダエグゼクティブチーム)のメンバーと議論を重ねた末に設定しました。これにより、グローバル全体の管理職層における男女比率を50:50の達成を目指しています。

新しいルールや制度を導入するだけではDE&Iは生まれません。従業員一人ひとりの意識や行動を変えるきっかけを作ることも大切です。それについては、今年は「DE&I Month(月間)」という形で実施しました。2021年に「DE&I Week」として始めたこのイベントが好評だったため、今年は期間を延長して9月の1カ月間実施したところ、結果として1万人の従業員が参加した非常に大きなイベントになりました。

今年のテーマは「Belonging」。これは組織に所属する帰属意識ということだけではなく、「自分が受け入れられている、尊敬されている」と感じられる、という意味です。Belongingを感じられる環境をつくることで、職場でありのままの自分で仕事をすることができ、十分に力を発揮することができると考えています。このBelonging「職場でありのままの自分でいること」をテーマにしたTETのメンバーによるディベートセッションでは、CEOをモデレーターとして6名のTETメンバーがそれぞれの経験や考えを話し合いました。

「ありのままの自分で働くことはインクルーシブな文化をつくり、ビジネスにも良い影響が生まれる」という点においては全員が確信していながらも、その環境づくりにおけるさまざまなチャレンジや、個人の受け止め方や感じ方の違いがあること、また一人一人が行動を起こすことの重要性などが挙げられました。

DE&I Month TETメンバーによるディベートセッション DE&I Month TETメンバーによるディベートセッション

さらにDE&I Monthでは、立場や視点の違う人について自分事化して考えるきっかけづくりとして、追体験型アプリ「Immersive Experience」を公開しました。偏見などにより不快に感じたり困惑した従業員のリアルなエピソードに基づき、その時感じた思いやとった言動を自ら語り、アプリユーザーは自分ならどうするか、どのように考えるかを1日15分程度、5日間にわたって配信するものです。

希望者を募った限定配信でしたが、グローバル全体で5000人ほどが体験し、提供終了後もチームで活用したい、などの声がたくさん寄せられましたし、さらに本アプリは、英国の「the Learning Tech Awards」でも評価されました。さらなる活用を考えていきたいと思っています。

実際にはどのようなアクションが生まれているでしょうか?

この取り組み後に実施された当年度の従業員意識調査では、ダイバーシティに関するスコアがグローバル全体で8%の上昇、Belongingに関する評価も4%上昇しました。一般的に1年で1~2%あがれば素晴らしいとされる中でのこの結果は、タケダの従業員のDE&Iに対する関心が高まっている兆しととらえています。

多様性から生まれる強さを、世界の患者さんを救う力に

これからの展望を教えてください。

ヘイデン:企業理念に基づき患者さんを中心に考えるという価値観を根幹とする、グローバルな研究開発型のバイオ医薬品企業として、DE&Iはイノベーションの源であり、可能性を探求していくうえで必須です。その理解を一人一人がどう日々の行動に移していけるかがカギといえます。DE&I MonthでTETメンバーから「DE&Iは私たちのBehavior(振る舞い)から始まっていく」というコメントがあったのですが、これは、リーダーとして積極的に行動を起こしていくという決意であったと同時に、従業員全員が意識を高めて一緒に変えていこうというメッセージでもありました。それぞれの一歩を積み重ねるきっかけづくりをグローバルDE&Iチームとしてサポートしていきたいと思っています。

ゆくゆくは、私たちのチームが必要なくなるくらいDE&Iが浸透するといいのですが、組織が大きくなり多くの人が集まって成長していく以上、課題が生まれるのは必然とも言えます。その課題一つ一つを検証し、どう未来につなげていくかが私たちの役割だと思っています。

これからの展望を教えてください。

ある社外の人から「ヘイデンさんのお仕事はまさにジェダイですね」と言われたことがあります。Justice(正義)そしてEquity、Diversity、InclusionでJEDI(ジェダイ)。私の大好きな映画のヒーローにたとえられてとてもうれしかったのですが、残念ながら差別や偏見、不公平を一瞬でなくすようなフォースは持ち合わせていません。子供のころに祖母から聞いたエピソードを胸に、今はDE&Iを推進することが世界の患者さんの課題解決につながると信じ、毎日全力を尽くしています。

DE&Iの一環として推進するLGBTQへの取り組みが評価され、2022年の「PRIDE指標」において最高評価のゴールドを受賞。 DE&Iの一環として推進するLGBTQへの取り組みが評価され、2022年の「PRIDE指標」において最高評価のゴールドを受賞。
ヘイデン・マヤヤス ヘイデン・マヤヤス
PROFILE

ヘイデン・マヤヤス

グローバル ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン(DE&I)ヘッド。
国内外の複数の業界でDE&I推進リーダーを務め、2021年にタケダ初の現職での責任者に就任。グローバル全体での事業運営にDE&Iを浸透させる取り組みを、日本を拠点に推進する。

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