• DX INSIGHTS Vol.02

日本発のグローバルなバイオ医薬品企業として、タケダが「世界中の人々の健康と、輝かしい未来に貢献する」という存在意義(パーパス)を実現する原動力となるのが、自ら考え行動する自律型の人財。タケダでは、全社的に「人」への投資を積極的に行っています。

なかでも、事業戦略である「三つのP」、つまり「患者さんへの貢献(Patient)」「従業員の理想的な働き方の実現(People)」「自然環境の保全(Planet)」を実現するために必要不可欠なものとして、「データとデジタルの力で、イノベーションを起こす」という理念を掲げています。デジタルの活用には、経営陣自らが率先して取り組むと同時に、全ての従業員にデータ&デジタルのリスキリングやアップスキリングの機会を提供しています。

今回は、こうした取り組みを、管理部門の変革を実践し、革新的なファイナンス・購買・人事のデジタルソリューションを社内各部門に提供することで促進しているタケダ ビジネス ソリューションズ(TBS)の図師康剛さん、塚本享さんにお話を伺い、TBSが取り組むデータ&デジタルの活用と、それを支える人財育成についてご紹介します。

TBSが取り組む管理部門の
変革が目指すものとは

まずは、タケダ ビジネス ソリューションズの社内における位置付けと役割について教えてください。

【図師】 ファイナンス組織の中にあるタケダ ビジネス ソリューションズ(以下、TBS)は、購買やファイナンス、人事などのシェアード業務を通じてシンプルかつ革新的なソリューションを提供することにより、全社的な事業戦略と優先事項の実現に貢献する部門です。そのためには社内顧客ともいえる研究開発、製造・品質、営業などの、製薬企業の中核を担う各事業部門の従業員が最大限に能力を発揮し効率よく結果を出せるように、デジタルイノベーションを核とした業務プロセスの改善をはじめ、様々なソリューションを提供しています。

約80の国と地域で事業を展開するタケダは、全社共通のビジネス目的の達成に向かいながらも、各地域、事業部門で独自のニーズや必要なプロセスが存在します。そんな多様な社内ステークホルダーのビジネスパートナーとして活動することで、タケダが大切にしている患者さんへの貢献に結び付けていくことがTBSの役割になります。

【塚本】 私たちがその役割を果たすためには、データ&デジタルの活用が不可欠です。各事業部門が持つ課題を解決するためのツールとして、デジタルソリューション、人工知能(AI)、ロボティックス、アナリティクスなども活用しながらソリューションを提供するとともに、データ&デジタル教育の様々な機会を創出しながら、「デジタルリテラシーの浸透と民主的なイノベーションの推進」を目指しています。具体的には、各部門のリーダーたちが数字やエビデンスに基づいて効率よくビジネス判断を下せるように、ビジネスインテリジェンスツールを用いて売上や経費を含むビジネス活動の見える化をすること、さらに生産性の高い活動に振り分ける時間を増やすために、経費精算のデジタル化を進めて省力化とペーパーレス化を図ることで従業員にかかる負荷を軽減したり、そのデータを活用して、コロナ禍で営業活動などの働き方が変わる中で、ハイブリッドな働き方にも貢献する、といった活動も行っています。

これからのTBSを担う人財には、データ&デジタル領域でどのようなスキルやケーパビリティを求めているのでしょうか?

【図師】 TBSに求められるのは、業務を俯瞰して課題を見つけ出し、解決していく力です。自らの業務と社内顧客の業務双方へのソリューション提供が求められます。自らの業務に関しては、定型業務も多い部門ですので、データ&デジタルの活用で省力化できるところは自発的に解決していく。社内顧客に目を向ければ、各事業部門で働く従業員のより良い働きやすさを実現するために必要な課題を解決していくこと。それによって、定期的に発生する業務に費やす時間を減らし、従業員が患者さんや医療従事者の方々にかける時間、研究開発にかける時間など、優先順位の高い業務に費やす時間を増やすことです。

TBSのメンバーには、ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA※)やAIをはじめとした先進的なツールを習得するだけでなく、その前提として「なぜそれを導入するのか」「どうすれば従業員がより働きやすくなるのか」を考えるところに、人財育成のスキルやケーパビリティを動機付けしています。具体的には、「4つの柱」をスキルの主軸に置いて、TBSのメンバーは、様々な経験を積んでいます。

※ロボティック・プロセス・オートメーション(RPA)とは
人間が手作業で行ってきた業務を、AIや機械学習等を活用して自動化する取り組みのこと。
スキルの主軸となる「4つの柱」コミュニケーション、チェンジマネジメント、プロセス設計、データ&デジタル スキルの主軸となる「4つの柱」コミュニケーション、チェンジマネジメント、プロセス設計、データ&デジタル

製薬会社であるタケダが、自らの力で課題を解決するデータ&デジタル人財を社内で育成することの意義について教えてください。

【図師】 データ&デジタルが世の中に与えるインパクトは非常に大きく、それはヘルスケアの領域においても同じです。グローバル課題の解決に挑もうとしたときに、私たちの仕事とデータ&デジタルは切り離せない関係で、それらを活用することはタケダの全従業員に求められているものになっています。

その中で、業務プロセスの変革を実装していくためには、各事業部門が持つ特色、課題やニーズを把握し、課題解決までのプロセスをスピード感と柔軟性を持って推進する力が必要になります。定型業務の変革であったとしても、事業環境やプロセスからの影響も加味しながら分析し、理解します。加えて、「ビジネスにどう追い風を吹かせるのか」の観点で、ITなど他部門の協力を仰ぎながらタケダにとって最適化したデータ&デジタルの活用を実現することも重要です。日本であれば日本の実情に合わせながら、どうやって新しいツールを活用するかなど、現場の皆さんの実情に寄り添うことでしか見えないところもある。どうすれば解決できるか、共にいろんな議論を戦わせながら同じ方向を向いて前に進んでいき、信頼関係を築くということも必要ですね。日々業務と向き合い、タケダのビジネスを理解している社内の人間だからこその強みであると考えます。

次世代のデータ&デジタル
人財育成も
グローバルで推進

人財育成という面では、どのようなプログラムを推進しているのでしょうか?代表的なものをご紹介ください。

【塚本】 データ&デジタルの取り入れを活性化させるための取り組みのひとつが、「オートメーションニンジャ」と呼ばれるプログラムです。まずはデジタルツールに親しむという観点から、自身の業務には精通しつつもデジタルに関しては比較的初心者と位置付けられる従業員がRPAのスキルやケーパビリティを高めて、実際の業務に実装していくように支援するものです。2020年8月にスタートし、これまでに日本国内で計4回、グローバルで13回実施され、日本国内で約300名、グローバルで約1700名が受講しました。受け身のセルフラーニングだけで終わらせるのではなく、実際の業務に活かせるスキルセットを身につけてもらうのが狙いで、過去のプログラムを卒業した従業員がメンターとなって育成する実践型プログラムになっている部分がポイントです。メンターは、自分自身が教わったスキルをさらに別の従業員に教えることによって、さらにデジタルリテラシーを高め、自分のスキルの幅を広げることが期待できます。

【図師】 TBSでは、先ほど挙げた「TBSが掲げる4つのスキルの柱」の基礎的な研修プログラムを取り入れています。私たちに求められるのは課題解決の力とか、部門とのパートナーシップ、コミュニケーションスキルや調整能力、ニーズを引きだすという幅広いスキルセットです。データ&デジタルの柱では、オートメーションニンジャをはじめ、AIなどさらに深い知識を取得できるものもありますし、具体的に現場の課題を解決するためのプログラムもあります。タケダ全社で取り組む基本研修、TBSの人財育成プログラム、実務での導入を推進するトランスフォーメーション・プログラムという3層構造になっているのが特徴で、従業員一人ひとりの長所やキャリアパスに合わせてリスキリングやアップスキリングしていくのが、TBSが推進する人財育成の狙いです。

タケダでは、学生を対象にした「タケダ・デジタル・アクセラレータプログラム」も展開されています。この特徴と狙いについても教えてください。

【塚本】 タケダ・デジタル・アクセラレータプログラムは、オートメーションニンジャの延長線上にあるもので、内容をデジタルネイティブ世代かつ業務自体の知識は持ち合わせていない学生向けにアレンジしたものです。タケダのポーランド拠点で先んじて導入され、日本では2022年からスタートした学生向けのインターンシッププログラムです。RPAのスキルだけでなく、チームでの問題解決や業務プロセスの分析・改善、自分を表現するデジタルプレゼンテーションのスキルなどを身につけてもらうことを目的にしています。参加者は、TBS内のリアルなビジネス課題に対して、実際のデータを活用したソリューションデザインに挑戦します。最後はファイナンスのトップである最高財務責任者(CFO)やTBSのリーダーシップチームに対してプレゼンの機会も提供します。

最終的なアウトプットは、本当に驚くほど高レベルで、みなさん苦労しながらも、どんどん新しいことを吸収していく。「これからどんなふうに彼らが成長する機会をつくれば、タケダが選ばれ続ける企業でいられるだろうか」と真剣に考える良い機会になりました。本プログラムは、来年度も実施を予定しています。

タケダでは、学生を対象にした「タケダ・デジタル・アクセラレータプログラム」も展開されています。この特徴と狙いについても教えてください。

プログラムに参加した
従業員や学生の声

それでは、「オートメーションニンジャ」と「デジタル・アクセラレータプログラム」に参加した従業員や学生たちは、どのような学びや成長を得たのでしょうか?実際に参加した従業員や学生、そして、学生たちのサポートにあたったメンター従業員の声をご紹介しましょう。

プログラムの“卒業生”たちが、
未来のタケダをリードする

こうした人財育成プログラムに参加した従業員や学生たちは、これからのタケダにとってどのような財産になると考えていますか?

【塚本】 データ&デジタルを巡る環境では、新しいテクノロジーがどんどん生まれていて、RPAだけでなく、AIをはじめとした様々な最新テクノロジーを組み合わせていくような可能性が広がっています。このような環境において、データ&デジタルのリテラシーをさらに高めていく向上心を持つこと、意欲的に学習していこうとすること。そうしたモチベーションが従業員一人ひとりに芽生えて、企業文化となりつつあることは非常に大きなことだと思います。

TBSの人財育成プログラムに参加した従業員たちは、業務の現場で業務効率化をどんどん推進しています。人財育成プログラムを通じてひとつのことを成し遂げるだけでなく、さらに大きな課題を見つけ出して挑戦し続けたり、卒業生のコミュニティを通じて業務を横断的に見ながら課題改善をはかったりすることで、タケダのデジタル・トランスフォーメーションをリードしています。こうした姿勢が「カルチャー」として定着することがタケダの財産になると考えています。

データ&デジタルを活用できる課題解決型人財の育成の先にある、TBSの将来像について教えてください。

【図師】 TBSとしては、データ&デジタルも駆使できる、課題解決型の人財育成を推進することによってタケダの一員として「革新的な医薬品を提供する」というミッションを後ろ支えしたいと考えています。グローバル組織であるTBSでは、世界中の仲間と常に情報交換を行っており、ベストプラクティスの共有ができます。学生向けインターンシッププログラムもその一例です。また、これまではグローバルソリューションを日本の各部門に導入していくというプッシュ型の活動がメインでしたが、今後はより能動的に課題解決をしていくために、現場との協業も深化させるような活動も始めましたので、プル型の活動も増やしていきます。

私たちがグローバルでどのような貢献ができるのかを考え、そのツールとしてデータ&デジタルをどう活用できるのか。これはタケダが全世界で共有している価値観でもあります。日本だけでなく世界中にいる様々な患者さんに貢献するという考えのもと、私たちTBSは自分たちにできることを現場に提供するだけでなく、世界中の研究開発、製造・品質・営業といった現場で抱えている様々な課題と向き合い、彼らのニーズに貢献できる組織になっていきたい。そのためには、人財育成もグローバルな規模での人財交流・情報共有も重要になります。TBSとしてこうした理想を着実に実践していければと考えています。

デジタルを活用できる課題解決型人財の育成の先にある、TBSの将来像について教えてください。

PROFILE

図師康剛

図師康剛

グローバルファイナンスTBS ジャパンヘッド。大手監査法人系のコンサルティング会社を経て、大手飲料メーカーにて内部監査、GBS組織の変革の企画・推進を担当。2020年よりタケダに入社し、日本のシェアード部門(TBS)においてデジタルを活用したソリューションプロバイダーへの変革を推進中。

塚本享

塚本享

グローバルファイナンスTBS ディレクター。前職のドイツ系事業会社では経理、FP&A部門をヘッドとして率いながら、デジタル化を担当。2021年1月より現職にて、デジタル化に向けたプロジェクトとTBS内の人財育成を手掛ける。


※TBS:タケダビジネスソリューションズ

本記事は2023年1月までの内容に基づいて記載。

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