• 解説タケダ図鑑 Vol.07

地域を中心とした、
持続可能な医療提供体制
構築を目指して

人口減少や高齢化の進展などにより、日本の人口構造は、今後さらに大きく変化していくと予測されています。また、人口構造や医療資源には地域差があることから、近年、医療制度の持続可能性を確保していくため、それぞれの地域の医療需要に応じた医療提供体制の構築が求められています。住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムの構築、地域における必要な医療機能や病床を確保するための地域医療構想など、従来の「病院完結型」から、地域での生活を支える「地域完結型」の医療提供体制の構築に向けた取組みが進んでいます。

製薬会社の強みを活かして、
各地域課題と向き合った
医療への取組みをサポート

医療を取り巻く課題は、地域特有の地理的要因による課題から、全国の自治体が抱えうる課題まで多岐にわたるため、将来に向けた医療提供体制の構築に必要な情報や支援は各地域で異なります。そこで、タケダの流通・地域アクセス統括部では、それぞれの地域医療課題に向き合った活動を実施しています。

具体的には、地域医療に関わる様々なステークホルダーとの連携を通じて、各地域における医療課題を特定し、地域の実情に即した情報提供や課題解決のための提案を行っています。さらにタケダのネットワークを活かしながら、他業種の企業や、地域に根ざした医薬品卸といったパートナーとの連携も図るなど、多角的に取組んでいます。

また、地域の医療課題解決により貢献できるように、タケダの重点疾患領域の課題を中心に支援しています。

誰もが最適な医療を受けられる社会の構築に貢献するために活動している、タケダの具体的な取組みをご紹介します。

地域課題と向き合う
タケダのアプローチ

地理的要因による課題
北海道
北海道
炎症性腸疾患(IBD)に
おける遠隔連携診療
流通・地域アクセス統括部 流通・地域アクセス統括部
流通・地域アクセス統括部
中西 豊

政策動向や社会環境変化を見据え、特に医療政策やDXなどをテーマに、北海道・東北の地域アクセス活動の推進支援を担当。

患者さんの医療アクセスを確保するには?

北海道は、国土の約5分の1もの面積を有し、179の市町村で構成されます。人口減少や高齢化が顕著に進んでいる地域では、患者さんが専門的な医療を受けられる体制を維持することが喫緊の課題となっています。専門医は主に札幌市や旭川市といった都市部に集中しており、各地域で必要な医師数を満たすには限界があるため、医療アクセス(※1)の確保が望まれています。

※1:医療アクセス…患者さんがご自身の生活圏で適切な医療を受けられる手段や機会があること。

患者さんの医療アクセスを確保するには? 患者さんの医療アクセスを確保するには?

専門医の同席による、近隣病院での遠隔医療体制の構築をサポート

北海道庁では、都市部の専門医が遠隔地の医師に指導や助言を行うために、遠隔TVカンファレンスシステムなどを導入する支援を行い、医療機関同士の連携を推進しています。こうした政策について、支援を必要とする地域の医療従事者に情報をお届けし、行政と現場の医療従事者を繋ぐことも私たちの役割の1つであると考えています。

具体的に私たちがサポートさせていただいた取組みの1つに、札幌医科大学による「炎症性腸疾患(IBD)(※2)の遠隔連携診療」の推進が挙げられます。地方では国の指定難病の1つであるIBDの診断や治療に精通した専門医の数は多くありません。そこで札幌医科大学では、患者さんご自身が近隣の医療機関で診察を受ける時に、大学の専門医が遠隔で同席することで、質の高い医療を受けられる体制を構築しています。その体制構築の中で、タケダは、北海道庁との連携や、遠隔医療に関わる政策情報などの提供支援を行いました。このように行政の取組み情報などを地域の医療従事者にお伝えする場面では、タケダのネットワークが役に立ち、患者さんの専門医への医療アクセス向上や通院負担の軽減など、地域医療に貢献できることを実感しています。

※2:炎症性腸疾患…大腸および小腸の粘膜に慢性の炎症や潰瘍を引き起こし、下痢や腹痛、血便などの症状を繰り返す疾患の総称。主に潰瘍性大腸炎とクローン病がある。

北海道公立大学法人
札幌医科大学医学部 副学部長
札幌医科大学医学部 
消化器内科学講座 教授
仲瀬 裕志 先生

私が北海道に来てまず初めに感じたことは、「道内のどこにいる炎症性腸疾患(IBD)患者さんに対しても同じ医療を提供したい」ということでした。地域在住のIBD患者さんのため、コロナ禍で始めた我々の遠隔連携診療の意義は大きいと考えています。そのため、2022年度の「冬のDigi田(デジデン)甲子園(※3)」での受賞をとても嬉しく思います。これからも道庁の方々と共に地域在住の難病患者さんに対する医療均一化をめざし、そして、この遠隔医療連携を他の疾患分野にも応用し、北海道から全国にその成果を発信していきたいと考えています。

※3:Digi田甲子園…国が行う「デジタル田園都市国家構想」を進める取組みの1つ。デジタルの活用によって地域の個別課題を実際に解決し、住民の暮らしの利便性と豊かさの向上や、地域の産業振興につながっている事例を募集し、その中から優れたものを表彰する。

北海道庁 保健福祉部
地域医療推進局地域医療課 課長補佐
竹内 剛 氏

少子高齢化が進展する中、広域分散型の北海道では、地域医療の確保において、ICTを活用した遠隔医療の活用も重要な手法の1つとして支援を行っていますが、札幌医科大学の遠隔連携診療は、患者さんの負担軽減のみならず、地域の医師にとっても診療の質の向上や安心感などに大きく寄与しているものと考えます。
北海道とタケダさんとは2018年に医療政策の支援に関する連携協定を締結し、これまでも地域医療構想の実現に向けて、他県の先行事例や遠隔医療に関する情報交換などの連携を深めてきました。行政とは別の視点から、様々な情報などをいただけるのも大きなメリットの1つだと感じています。
今後も、関係者の皆さまと連携を深め、住民の皆さまが安心して暮らせるよう地域医療の確保に努めてまいります。

長崎県五島市
長崎県五島市
ドローンを用いた医薬品
配送の実証
流通・地域アクセス統括部 流通・地域アクセス統括部
流通・地域アクセス統括部
平埜 雄大

将来の社会環境変化を予測しながら、様々なステークホルダーとの連携・共創により、地域医療提供体制の構築支援を担当。

通院困難など、離島ならではの課題が
浮き彫りに

長崎県五島市は、九州の最西端に位置し、10の有人島と53の無人島で構成されています。地域の医療課題を特定するにあたって五島市と長崎大学からお話を伺ったところ、五島市では離島という地理的特性上、専門性の高い医療機関が遠方にあるため、患者さんやご家族にとって通院が大きな負担となっていることが浮き彫りになりました。また、離島の医療機関では、備蓄できる医薬品の種類や量が限られていることも治療上での課題になっていることが分かりました。

通院困難など、離島ならではの課題が浮き彫りに 通院困難など、離島ならではの課題が浮き彫りに

医薬品をドローンで配送することで患者さんの負担を軽減

タケダは、離島に住む患者さんが抱えるこれらの課題を解決するため、行政、医療機関、航空会社、通信会社などと連携し、2021年3月にドローンを活用した医薬品配送の実証実験を行いました。

通常、患者さんは1日数便しかない定期船を利用しながら自宅と医療機関を往復する必要がありました。そこで今回の実証実験では、まず患者さんに自宅でオンラインにて、診療と服薬指導を受けていただきました。その後に、関係者の支援のもと、ドローンを活用することによって、患者さんは自宅近くで処方箋医薬品を受け取ることができました。将来こうしたことが実際に実現すれば、患者さんは離島にいながら医療を受けられ、かつ通院負担を軽減することができます。

また、医療機関に備蓄されていない医薬品を急遽処方するケースを想定し、医療機関が医薬品卸へ医薬品の発注を行い、ドローンで緊急配送をする実証実験も行いました。再現性を高めるために、タケダは特約店契約を交わした医薬品卸と連携し、医療機関にもご協力をいただいたことで、より実態に即した配送の実証実験となりました。

日頃から全国の地方自治体と連携し、地域医療の課題解決を通じて患者さんの医薬品へのアクセス向上に努めてきたことで、真に地域や患者さんの視点に立った形で、医薬品開発に限らない課題解決を実現する可能性が見えてきました。

長崎県 五島市長
野口 市太郎 氏

五島市では住民の高齢化に加えて交通の便が脆弱なため、住民の皆さまの医療機関受診の移動負担を軽減しながら、医療アクセスを確保することが求められています。その中で、タケダさんと行ったドローンによる医薬品輸送やオンライン診療の実証実験は、離島特有の課題解消に繋がる取組みの1つとして大きな可能性を感じました。これからも時代に即した新しい施策も前向きに検討し、住民の皆さまの健康づくりに貢献してまいります。

長崎大学病院 総合診療科 教授
前田 隆浩 先生

五島列島などの離島・へき地では、医療機関や医師などの医療資源が限られているため、オンライン診療やドローンなどのデジタル技術を積極的に活用した新たな医療提供体制を構築することが求められています。今回のタケダさんをはじめとした複数企業との連携による実証実験では、患者さんや地域医療全般の視点から共に取組むことができたため、最終的に患者さんやそのご家族から非常に高い評価を得られたと考えています。今後も継続した地域医療への貢献を望みます。

全国の自治体が抱えうる課題
神奈川県
神奈川県
うつ啓発施策の実施/
こころサポーター養成研修
流通・地域アクセス統括部 流通・地域アクセス統括部
流通・地域アクセス統括部
瀬川 文里

首都圏・北関東甲信越エリアの地域アクセス活動の推進支援を担当し、神経精神疾患事業部などと連携した取組みも展開。

コロナ禍で増加に転じた自殺者数を
減らすために

神奈川県は継続した自殺対策によって2012年以降、自殺者数は減少傾向となっていましたが、新型コロナウイルス感染症の感染が拡大した2020年に、その数は大きく増加しました。そこで、神奈川県とタケダは、以前にも増して対策を強化するため、まずは自殺者が増えている要因を分析し、解決策を検討しました。

その結果、自殺の原因や動機で目立つ「健康問題」、とりわけ「うつ病」(※4)への対策の強化のため、2019年9月に締結した「地域医療における神奈川県との医療連携協定 」に基づき、協働を開始しました。この取組みの一環として、2022年度に実施したのが「薬局を通じたうつ病啓発活動」と「こころサポーター(※5)養成研修の職域での実施」です。

※4:出典…神奈川県 健康医療局がん・疾病対策課『かながわ自殺対策計画(平成30年度~平成34年度)』(平成30年3月)

※5:こころサポーター…厚生労働省が認定する、メンタルヘルスや精神疾患への正しい知識を持ち、地域や職域で心の健康問題を抱える人や家族に対して手助けする人。国では、2033年度末までに100万人のこころサポーターを養成することを目標に掲げている。

コロナ禍で増加に転じた自殺者数を減らすために コロナ禍で増加に転じた自殺者数を減らすために

職域連携での取組みを、全国の
モデルケースに

うつ病啓発活動は、神奈川県薬剤師会に加盟する一定の薬局などで、健康相談や薬の処方で訪れた方を対象に行いました。この活動は、うつ病に対する正しい情報を届けることで、患者さんの早期発見や早期診断へ繋げることを目指したものです。神奈川県、タケダに加え、医療関係団体にも有識者として、活動に対するご意見をいただくなど協力を得ました。

また、神奈川県では、全国の複数の自治体で実施する国のモデル事業として、こころサポーター養成研修を行っています。2022年度は、タケダと連携し、「職域モデル」としてタケダと医薬品卸の従業員に対して、また、「医療関係団体連携モデル」として薬剤師に対して、それぞれ養成研修を行いました。このような民間企業との連携は、神奈川県独自の試みであり、「こころサポーター養成研修」の新たなモデルとして取組みました。

タケダは、「神奈川県の自殺者数を減少させる」というビジョンのもと、自治体とともに、重要かつ優先度の高い地域医療課題の解決に従事しました。このような神奈川県の医療課題に注力した取組みは、他社にはない強みだと思います。国が目標にしている、10年間で100万人のこころサポーターの育成の推進に向け、神奈川県との新たな「職域連携事例」などをモデルケースとして構築していきたいです。

神奈川県 健康医療局 保健医療部 精神保健医療担当課長
渡邊 寛和 氏

こころサポーターの養成は、メンタルヘルスの正しい知識や、心の不調を抱える方に寄り添うことの重要性を、多くの方に理解していただく取組みとして大変重要です。
2022年度には、タケダさんと協力し、これまでの県民向けの研修に加え、職域での研修をオンラインで実施し、一度に100人を超える方に受講いただくことができました。
今後も引き続き、こうした工夫を重ねながら、こころサポーターの養成に、積極的に取組んでまいります。

東京都西新宿
東京都西新宿
自動配送ロボットを用い
た医薬品配送の実証
流通・地域アクセス統括部 流通・地域アクセス統括部
流通・地域アクセス統括部
平埜 雄大

将来の社会環境変化を予測しながら、様々なステークホルダーとの連携・共創により、地域医療提供体制の構築支援を担当。

希少疾患患者さんが抱える、
医療アクセスへの負担

医薬品へのアクセスの観点でニーズが高い疾患の1つとして、血友病(※6)があります。その背景には、診療できる専門機関が限られていることによる通院の負担だけでなく、治療に用いる医薬品は温度管理が求められており、医療機関で医薬品を受け取った後に大きな保冷バッグを自宅まで運ばなければならず、身体的にも精神的にも大きな負担があります。

※6:血友病…12種類ある血液凝固因子(出血を止めるために重要な働きをするタンパク質などの物質)のうち、いずれかが遺伝的に欠けているために出血が止まりにくくなる疾患。

そのため、診療環境の整備や医薬品持ち帰りの負担軽減、さらには使用後の医療廃棄物を可能な限り非接触で回収するなど、患者さんを取り巻く医療提供体制を一気通貫で構築していく必要性を感じていました。

希少疾患患者さんが抱える、医療アクセスへの負担 希少疾患患者さんが抱える、医療アクセスへの負担

自動配送ロボットで処方箋医薬品を届ける

そこで2023年1月、川崎重工業株式会社を中心とする6社合同で、「西新宿における自動配送ロボットを活用した実証実験」を実施しました。今回ご協力いただいた血友病の患者さんにはオンラインで診療・服薬指導を受けていただいた後、自動配送ロボットで配送された処方箋医薬品を受け取りつつ、模擬の医療廃棄物を自動配送ロボットで回収を行う一連のサービスを体験いただきました。この取組みを通して、患者さんが自宅にいながら、従来通りの医療を受けられる体制を構築する構想です。
*この実証実験は2023年1月31日に実施し、現在、本運用は行っておりません。

この実証実験においてタケダは、日頃から築いてきた医療機関との信頼関係や医療連携におけるノウハウを活かし、配送の仕組みを築くための提供支援とともに、医療機関との連携支援の役割を担いました。また、流通・地域アクセス統括部のメンバーのみならず、希少疾患事業部や医療政策・ペイシェントアクセス統括部のメンバーなど部門横断の連携を進めたことで、地域医療課題解決と疾患課題解決の両軸で、患者さんにとって最適な医療提供体制を検討できたと感じます。

すべての患者さんに切れ目
なく、医療を届けるために

医療における課題は地域によって異なりますが、地域医療の課題解決に携わることで、患者さんが医療にアクセスしやすくなることを目指しています。地域全体の医療課題を見渡せる部門を有し、地域医療の課題解決に積極的に取組んでいることは、タケダならではとも言えます。

すべての患者さんに最適な医療を届けるために。医薬品を開発し、創って届けるだけではなく、タケダは持続可能な医療提供体制を構築していくための支援活動に、さらに力を注いでいきます。

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