• パーパス経営とガバナンス Vol.04

パーパス・サステナブル
経営ってナンダ?

パーパス経営とガバナンスVol.04

真の多様性を追求し続ける
グローバル企業としての責任


Forbes JAPAN BrandVoice(2022/3/28掲載) の転載記事です。

創業から240周年を迎えた製薬最大手・武田薬品工業。2014年に初の外国人トップ、クリストフ・ウェバーを招聘して以来、グローバル市場で勝ち抜くための改革に矢継ぎ早に着手してきた。本誌2021年11月号の長期コミットメントランキングでも高評価を得た同社のガバナンスの強さについて、話を聞いた。

「コーポレートガバナンスを強化し、健全性と透明性を確保した迅速な意思決定体制を築くことが、我々の価値観(バリュー)であるタケダイズムに基づいた、パーパス(存在意義)やビジョンの実現に重要と考えています」

経営企画を担当するコーポレートストラテジーオフィサー・佐藤弘毅は、武田薬品工業(以下、タケダ)のコーポレートガバナンスについてそう説明する。この「価値観に基づくガバナンスの強化」が、同社の目指す未来の実現へつながると言うのだ。金融庁および東京証券取引所は、日本企業のガバナンスの底上げを目的に2015年にコーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)を策定。2021年6月には、東証新市場体制への移行を見据え改訂を行った。タケダは創業時より培われた誠実を中心に据える価値観「タケダイズム」と企業理念を旗印に、速やかにCGコードの全原則への対応を進めてきた。

【佐藤】「昨年のCGコードの改訂にも積極的に、迅速に対応することができました。今後も自社の価値観に基づき、コーポレートガバナンスの更なる強化を目指していきます」

多様性こそがパーパス・サステナブル経営実現のカギ

タケダのガバナンスの強化は、2016年に監査等委員会設置会社への移行と共に加速してきた。  

同社の取締役会は経験豊富なグローバルリーダー16人で構成されている。内12人は独立社外取締役だ。各取締役はグローバル企業でのリーダーシップ経験のみならず、グローバル基準のガバナンスに関する知識、法務・財務等の専門性などさまざまなバックグラウンドを有する。

また、執行役員にあたるタケダ・エグゼクティブ・チーム(TET)の存在も、同社のガバナンスを推進するうえで重要な位置を占める。多様化する経営課題に機動的かつ迅速に対応するため組織され、CEOおよび国籍・性別など多様な属性をもった各部門トップのメンバーから成る18人で運営されている。これらの強固なガバナンス体制によって、意思決定がステークホルダーにとって最善の選択肢となるよう、監督、執行側を問わず、建設的な議論が生まれているという。

さらに、全社的に多様性を包摂していくこともタケダが目指す改革のひとつだ。

同社では、日本国内における女性・外国籍・中途入社者の管理職への登用割合などの情報も積極的に開示している。なかでも女性の管理職登用水準は16%と国内の同業他社よりもすでに高いが、今後は30%へとさらに引上げることを目標としている。

同社チーフグローバルコーポレートアフェアーズオフィサー・大薮貴子は言う。

「多様性、公平性・包括性(DE&I)を確保し実行することは決して簡単なことではありません。事業を展開する世界各国のローカルでの文脈でその解釈も異なるからです。それでも多様性に満ちた世界でグローバルに事業を展開する私たちは、自らの多様性こそパーパス経営を実現するためのカギであり、グローバル市場で勝ち抜くための競争力であると信じています」

タケダが多様性を重要視する理由のひとつに、自社が注力する事業領域での課題解決がある。大薮は説明を続ける。

「例えば、我々が注力する希少疾患は、患者さんによって抱えている課題が実に多種多様です。金太郎あめのような組織の在り方にとらわれていては解決できません。自分たちの存在や発想を豊かにしてこそ、多様な患者さんに寄り添った解決策を提供できるはずです。

また製薬の世界は人的資本が勝敗を分ける産業。経営はもちろん、製造ラインや営業現場でも革新的な発想が問われる。その源泉として、多様な発想をもつ組織づくりが必須となります」

大薮は、DE&Iを実現するためには、「全社を挙げたサポート」や「社内の隅々まで考えを共有する」ことが重要だと付け加える。多様な属性をもつ人財がリーダーシップを発揮するための教育、そして、多様性が発揮されうる包括的な職場環境づくりに引き続き注力していくとする。

【大薮】「日本の場合、女性の登用は言わずもがな、世代の多様性も大きな課題になるでしょう。グローバル市場、また患者さんの数だけある多様性に対し適切な解決策を提供していくため、タケダの価値観にのっとったDE&Iを展開していきたい」

創業から240年を超えた老舗企業が、大変革を行うことは決して容易なことではない。しかしタケダは、存在意義(パーパス)を実現するために改革の道を選択していくのだろう。

【大薮】「強固なガバナンス体制や多様性を包摂した組織づくりを土台に、タケダはどんな課題を解決し、社会的価値を提供したいのか。自社が築きたい未来を丁寧に説明し、世界のステークホルダーの皆様と共に、その未来を築いていきたい」

CFOコスタ・サルウコスが語るタケダのグローバル企業としての責任

「東京証券取引所とニューヨーク証券取引所の両取引所に上場するタケダは、グローバルのトップ企業レベルの情報開示の水準を目指し、日本、米国および両取引所の法規制や規則に準拠し、適時適切な情報開示に努めています。

タケダは、四半期決算報告書や有価証券報告書の英語での開示や、米国証券取引委員会に提出しているForm20-F年次報告書については日本語版の発行を行うなど、両証券取引所に上場する企業として株主・投資家に対し丁寧な情報の開示に注力しています。

また、最近では、株主等のステークホルダーにとってより重要度が増してきているESG(環境・社会・ガバナンス)に関する取り組みを含む非財務情報、例えばカーボンニュートラルへの取り組み、2021年にAccess to Medicine Indexにおいて業界をリードする順位を獲得した医薬品アクセス、役員報酬制度などについても積極的に発信しています。透明性の高い情報開示はこの4月に移行する東証プライム市場においても求められることであり、常にベストプラクティスを求めて開示の強化を念頭に置いているのです。

私たちはいま、グローバルな研究開発型のバイオ医薬品のリーディングカンパニーとして、革新的な医薬品を創出し続ける未来を目指しています。自社研究開発力や他社やアカデミアとのパートナーシップを通じた非常に競争力のあるR&Dエンジンを駆使し、継続的な成長を実現するために、既存の革新的な製品ポートフォリオに加え、約40の新規候補物質で構成される多様性の高いパイプラインに対し、今後も積極的な投資を続ける方針です。

私たちが目指す未来の姿およびそれを実現するための戦略、それらを実行する姿を全世界の株主・投資家の皆様に深く理解いただけるよう、引き続き透明性の高い情報開示に努めてまいります」

text by Jonggi Ha | photographs by Yutaro Yamaguchi | edit by Miki Chigira

PROFILE

佐藤弘毅

武田薬品工業 コーポレート ストラテジー オフィサー&チーフ オブ スタッフ。2003年の入社後、複数の国々や部門にて職務責任を広げ、新興国のジェネラルマネジャーなどを経て現職。

大薮貴子

武田薬品工業 チーフ グローバル コーポレート アフェアーズ オフィサー。2019年11月に入社後、広報、CSR、渉外、グローバルセキュリティそして危機管理およびサステナビリティを統括してきた。

コスタ・サルウコス

武田薬品工業 取締役 チーフ ファイナンシャル オフィサー(CFO)であり、オーストラリア公認会計士協会のメンバー。2015年にEUCAN(欧州およびカナダ)ビジネスユニットのCFOとして入社し、18年3月にCFO、19年6月に取締役に就任。

※所属は撮影当時のものです

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